「気が向いたらかくリクエストボックス」より。
インセインセッション「ざりざり」で私が使用したキャラ立藤陽那と彼女の幼馴染のキャラの統道境が、恋人になった世界線での寝起き話。

* * *

光が、差している。朝の光らしい、やわらかな白。
だが、寝起きのうすぼんやりとした頭で気づく。この白さはただの朝の白さではない。朝の白さ以上に、他の何色も存在させない、潔癖さすら感じる白。今窓から差してきて、私の眼を覚ましたのはそういう白だ。

「雪か」

後ろからくぐもった低い声がした。同じ布団を被っていて、私の胴を拘束するように腕を回しているこの声の近さに漸く慣れたのは、つい最近の事。うん、予報当たったね、と返すと、聞いているのかいないのか声の主は私の首筋付近に顔をすり寄せて来た。私もまだ寝ぼけているが、この男の寝ぼけ方の方が明らかに自分より上だ。

寒いだろうけれど、ちょっと雪かきしとくべきかな、これは。そう思って自分を奮い立たせて、布団の中から出ようとする。が、胴に回された腕が思っていた以上にしっかりと私の身体に回されていて、容易に逃れる事ができない、どころか私が出ようとするのを押さえ込むように改めてしっかと抱きかかえられてしまう。

「えーと、境さん」
「やだ」
「まだ何も言って無いじゃん」

離せ、という要求をしようとしたのは予想がついたらしく、言い切る前に遮られてはどうしようもない。――と諦めていたらこの男の相手は務まらない。こちとら幼少期からウン十年の付き合いなのである。

「折角朝ご飯作ってあげようと思ってたのになー」
「……」

否定の言葉は来ない。もうひと押しか。

「境、好きだよね? フレンチトースト」
「……うー」

まだ不満げな声だが、返事が返って来るだけ懐柔されつつあるという事。

「シナモンもかけるからさ」
「……砂糖も多め」
「はいはいって」

腕が渋々解かれるのを受けて、布団から抜け出す。エアコンもつけていない室内の冷気に身を震わせながら、まだ眠そうなヤツの髪を片手でさらりと撫でるように手を伸ばしたのは無意識だった。その手をぐいと引き寄せられる。危うく布団の上へダイブする所だった。

「わっ、……っとと、ちょっと、危ないなぁ」
「……ちぇ」
「ちぇじゃないでしょ、私、あんたの朝ごはん作りに行こうとしてんのよ」
「もちっとひなを湯たんぽにしてたかった」
「私は湯たんぽじゃないのでお生憎。できたら呼びに来る、それまでは布団の中いていいから」

自分はこの男にとことん甘いなあ、と我ながらため息を吐きながら掴む手から自分の手を引き抜いた。
予告通りフレンチトーストを二人分作りながら、外を見やればしんしんと雪が積もりゆく。都会でもないが山奥でもないこの地域で、折角こんなに雪が積もったんだから後で二人でカマクラ作りにでも誘ってみようか。そんな想像に小さく笑みを溢しながら、トーストを皿へと引き上げた。

<了>

* * *

続きを書きました。
続・境ひなの話

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